日本の古典文学はどれもすばらしいものばかりです。特にその序文は、作者の思いが凝縮された部分がと思います。
日本人ならば一部とはいえ暗唱できるようになりたいものです。
奥の細道 ・・・・・
月日は百代の過客にして、行きかふ年もまた旅人なり。
舟の上に生涯をうかべ馬の口とらへて老を迎ふる者は、日々旅にして旅を栖とす。古人も多く旅に死せるあり。
予もいづれの年よりか、片雲の風にさそはれて漂泊の思やまず、海浜にさすらへ、去年の秋 江上の破屋に蜘蛛の古巣を払ひてやゝ年も暮、春立てる霞の空に、白川の関越えんと、そゞろ神の物につきて心をくるはせ、道祖神のまねきにあひて取る物手につかず、股引の破れをつづり笠の緒つけかへて、三里に灸すうるより、松島の月まづ心にかゝりて、住める方は人に譲り、杉風が別墅に移るに、
草の戸も 住みかはる代ぞ 雛の家
表八句を庵の柱にかけおく。
平家物語 ・・・・・
祇園精舎の鐘の声、諸行無常の響きあり。沙羅双樹の花の色、盛者必衰の理をあらはす。
おごれる人も久しからず、ただ春の夜の夢のごとし。たけき者も遂にはほろびぬ、ひとへに風の前の塵に同じ。
遠くの異朝をとぶらへば、秦の趙高、漢の王莽、梁の朱忌、唐の禄山、これらは皆、旧主先皇の政にも従はず、楽しみを極め、諫めをも思ひ入れず、天下の乱れんことを悟らずして、民間の愁ふるところを知らざつしかば、久しからずして、亡じにし者どもなり。
近く本朝をうかがふに、承平の将門、天慶の純友、康和の義親、平治の信頼、これらはおごれる心もたけきことも、皆とりどりにこそありしかども、間近くは六波羅の入道前太政大臣平朝臣清盛公と申しし人のありさま、伝え承るこそ、心も詞も及ばれね。
徒然草 ・・・・・
序
つれづれなるままに、日暮らし、硯に向かひて、心にうつりゆくよしなしごとを、そこはかとなく書きつくれば、あやしうこそものぐるほしけれ。
第七段 あだし野の露
あだし野の露消ゆる時なく、鳥部山の煙立ちさらでのみ住み果つる習ひならば、いかに物の哀れもなからん。
世は定めなきこそいみじけれ。命あるものを見るに、人ばかり久しきはなし。
かげろふの夕を待ち、夏の蝉の春秋を知らぬもあるぞかし。
つくづくと一年を暮らす程だにも、こよなうのどけしや。飽かず、惜しと思はば、千年を過すとも、一夜の夢の心地こそせめ。
住みはてぬ世に、醜きすがたを待ちえて、何かはせん。命長ければ辱多し。
長くとも四十に足らぬほどにて死なんこそ、目安かるべけれ。
そのほど過ぎぬれば、かたちを恥づる心もなく、人に出でまじらはん事を思ひ、夕の日に子孫を愛して、榮行く末を見んまでの命をあらまし、ひたすら世を貪る心のみ深く、物のあはれも知らずなりゆくなん、あさましき。
方丈記 ・・・・・
行く川の流れは絶えずして、しかも、もとの水にあらず。
淀みに浮かぶうたかたはかつ消え、かつ結びて、久しくとどまりたるためしなし。
世の中にある人と住みかと、またかくのごとし。 玉敷きの都の内に、棟を並べ、いらかを争へる、高き、卑しき人の住まひは、 世々を経て尽きせぬものなれど、これをまことかと尋ぬれば、昔ありし家はまれなり。
あるいは、こぞ焼けて、ことし造れり。あるいは、大家滅びて、小家となる。 住む人もこれに同じ。
所も変はらず、人も多かれど、いにしへ見し人は、 二、三十人がうちに、わづかにひとりふたりなり。
朝に死に、夕べに生まるる習ひ、ただ水のあわにぞ似たりける。
知らず、生まれ死ぬる人、いづかたより来たりて、いづかたへか去る。
また知らず、仮の宿り、たがためにか心を悩まし、何によりてか目を喜ばしむる。
そのあるじと住みかと、無常を争ふさま、いはばあさがほの露に異ならず。
あるいは露おちて、花散れり、残るといへども朝日に枯れぬ。
あるいは花しぼみて、露なほ消えず。 消えずといへども夕べを待つことなし。
枕草子 ・・・・・
春はあけぼの。
やうやう白くなり行く、山ぎは少しあかりて、紫だちたる雲の細くたなびきたる。
夏は夜。月のころはさらなり。やみもなほ、ほたるの多く飛びちがひたる。
また、ただ一つ二つなど、ほのかにうち光りて行くもをかし。雨など降るもをかし。
秋は夕暮。夕日のさして山の端いと近うなりたるに、烏の寝どころへ行くとて、三つ四つ、二つ三つなど飛びいそぐさへあはれなり。
まいて雁などのつらねたるが、いと小さく見ゆるはいとをかし。
日入りはてて、風の音、虫の音など、はたいふべきにあらず。
冬はつとめて。雪の降りたるはいふべきにもあらず。
霜のいと白きも、またさらでも、いと寒きに、火などいそぎおこして、炭もてわたるもいとつきづきし。
昼になりて、ぬるくゆるびもて行けば、火桶の火も白き灰がちになりてわろし。
風姿花伝 ・・・・・
夫れ申楽延年の事態その源を尋ぬるに或は仏在所よりおこり或は神代より伝はるといへども
時移り代へだたりぬればその風を学ぶ力及びがたし
近比万人のもてあそぶところは推古天皇の御宇に聖徳太子秦河勝に仰せて
且は天下安全の為且は諸人快楽の為六十六番の遊宴をなして
申楽と号せしより以来代々の人風月の景を仮りてこのあそびの中だちとせり
その後かの河勝の遠孫この芸を相続ぎて春日日吉の神職たり
仍て和州江州の輩両社の神事に従ふこと今に盛なり
されば古を学び新を賞する中にも全く風流をよこしまにすることなかれ
ただ言葉賤しからずして姿幽玄ならんを承けたる達人とは申すべきか
先づこの道にいたらんと思はん者は非道を行ずべからず
但し歌道は風月延年のかざりなれば尤もこれを用ふべし
凡そ若年より以来見聞き及ぶところの稽古の条々大概注し置くところなり
一、好色 博奕 大酒 三重戒これ古人の掟なり
一、稽古は強かれ 諍識はなかれ
となり
花鏡 ・・・・・
奥段
然れば 当流に 万能一徳の一句あり
初心不可忘
この句 三箇条の口伝あり
是非の初心不可忘
時事の初心不可忘
老後の初心不可忘
